大判例

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東京高等裁判所 昭和31年(行ナ)16号 判決

原告の本件特許出願にかゝる「洗濯機械に関する改良」の発明は、西暦千九百四十五年(昭和二十年)六月八日米国においてなした特許出願に基く優先権を主張したものであり、その明細書中最終に訂正された「特許請求の範囲」の項には、「連続回転される円盤状の形状を有する攪拌器が、常時洗濯液中に浸漬する場所において、しかして円盤周縁がその全周を通じ容器の側壁又は容器側壁上に設けられた部分に充分に近接して、洗濯さるべきものが攪拌器背後の空所に入ることを防止する如く容器側壁に取付けられていることを特徴とする、洗濯液容器、回転攪拌器及び該攪拌器駆動装置よりなる洗濯機」と記載されており、これと前記明細書の全文及図面の記載とによれば、本件発明の要旨は、当事者間に争がないように、「洗濯液槽と回転攪拌器とその駆動装置とからなり、該回転攪拌器は

(イ) 円盤状のものであること

(ロ) 一方向だけに連続回転するものであること

(ハ) 水平軸または略水平軸を有して洗濯液槽の側壁に取付けられ、作動中常時洗濯液に浸漬されていること

(ニ) 円盤の周縁全部が洗濯液槽の壁またはこの壁上に設けられた部分に、洗濯物が攪拌器の背後の空所にはいることを防止するように十分近接して取付けられていることを特徴とする洗濯機」であることが認められる。

前記当事者間に争のない事実及びその成立に争のない乙第一、二号証の各一、二によれば、審決が引用した第一、二引用明細書には、次の事実が記載してあることを認めることができる。

(一) 第一引用例米国特許第二、一一九、二五四号明細書は、昭和十三年十月十四日特許局に受入れられたもので、これには、「電気洗濯機において洗濯液槽は平面で四角形をなし、その向い合つた側壁に、それぞれ水平軸を有する攪拌器を取付け、これと同じ中心軸線を有する半円筒形の底と、それに続側壁と蓋板とを具えたもので、対向する二つの攪拌器は、その軸に固定された円板とこの円板に螺杆で取付けられた翼とからなり、その回転方向は実施の型によつて二攪拌器とも同一方向、互に反対方向及び共に往復運動の三種類あり、また洗濯物を収容するための金網製網籠を使用し、又は使用しないし、洗濯液は攪拌器軸に達しない程度のものを図示するが、使用に当つてはそれ以外の液面にも使用できる」旨の記載がある。

(二) 第二引用例米国特許第二、〇七一、六二二号明細書は昭和十二年七月二日特許局に受入られたもので、これには、「電気洗濯機において、円筒形洗濯槽の底はほゞ平面をなし、その中心を外れたところに垂直軸を有する攪拌器が取付けられ、その攪拌器は全体が薄板製中高の円盤状で、その一側部に中心から半径方向に等間隔の緩い波状の翼を設け、その残部をほゞ同高とし、この攪拌器の取付部は、底板の一部を少しく低めて円盤周縁全部と底板との間の間隙を狭くしたもので、また洗濯液槽の底板には攪拌器取付部を除き、側壁から半径方向の五個の力骨を付し、その両側及び中央の力骨には底板から側壁にかけて邪魔板を設けて攪拌器の連続回転による洗濯液の渦巻運動を妨げたもの」が記載されている。

そしてこれらの記載によれば、第一引用例により、「洗濯装置において回転攪拌具を洗濯槽の側壁に水平に設けること」が、また第二引用例によれば「洗濯装置用回転攪拌具が、洗濯容器の取付壁に接近して取付けられる円盤でできており、該円盤はその全周縁を通じその位置する該壁から狭い間隙を備えて離れて設置され、しかも該攪拌具の表面に比較的低くして滑らかな曲つた横断面を有する肋骨を一体に具備すること」が、いずれも本件出願の基準となる米国特許出願日以前わが国内において公知となつていたものと解するを相当とし、また「攪拌器を水平軸に取付け洗濯液中に浸漬させたときは、これを一方向に連続回転させても、垂直軸の場合のように水面の中央が低く、周囲が高くなる欠点を生じないことは、あえて乙第三号証によるまでもなく、周知の理論であるものと解せられる。

よつて以上認定したところにより、原告の出願にかゝる本件発明が、審決のいうように、「以上の公知事実の存在からみて、当業者が容易に推理し得る程度のもの」であるかどうかについて判断するに、本件出願発明の要旨とするところのうち前記(ハ)の点を除いたもの、すなわち「洗濯液槽と回転攪拌器とその駆動装置とからなる洗濯機で、その攪拌器が円盤状で一方向にのみ連続回転し、同盤の周縁全部が洗濯槽の壁に十分近接して取付けられ、洗濯物がその背後の空所に入ることを防止するようにされたもの」は前記第二引用例に記載され、本件特許願が基準とする米国特許願前わが国内において公知に属しており、また前記(ハ)の要件の一部である「攪拌器が水平軸を有して洗濯液槽の側壁に取付けられたもの」は、第一引用例に記載され、同様わが国内において公知に属したものといわなければならない。そして右第一引用例には(ハ)の要件の一部である攪拌器の全部が液中に浸漬された場合については記載していないが、先に認定したように水平軸攪拌器を洗濯液中に浸漬すれば、一方向に連続回転しても渦巻による垂直軸における欠点を除去し得ることは一般に知られているところであるから、結局本件出願にかゝる洗濯機は、前記公知事実から当業者が容易に推考し得る程度の設計的考案で、特許法第一条の発明を構成するに至らないものと判断するを相当とする。(当審における鑑定人大山義年の鑑定の結果もまた同趣旨に出でるものと解され、甲第十四号証におけるこれに反する見解は採用しない。)

原告代理人は、本件出願の発明は特許請求の範囲に記載した数個の要素の組合せであつて、これらを組合せた結果その各々が持つていなかつた効果が得られるもので、決して個々の要素の有する利点の算術的和ではないと主張する。しかしながら本件出願発明の場合において、その効果は、前記公知事実が有する効果をそのまゝに発揮したものと解するを相当とし、これらの要素を組合せたことによつて、それらの要素が持つていなかつた特殊な効果を創り出したものとは認めることができない。原告代理人はこれら特殊の効果として、(イ)優秀な洗濯効果を有すること、(ロ)構造の簡単なこと、(ハ)同一量の洗濯物処理に対する機械の大きさの小さなこと、(ニ)取扱い及び使用後の掃除の容易なこと等を挙げているが、これらはいずれも本件発明そのものが有する、前記公知事実を組合せたものにはみられない特殊の効果というより、これを実施するに当つてなされる設計によつて得られる利点であつて、前記公知事実を組合せたものも、同様設計によれば、同様の効果を生ずるものと解せられるから、原告代理人の右主張は採用することができない。

原告代理人はまた引用の二つの米国特許明細書に記載された洗濯機の一つ一つと、本件発明の洗濯機とをそれぞれ比較し、後者が前者のいずれに対しても優れたものであることを主張し、その成立に争のない甲第五号証、第六号証の一、二及び当裁判所が真正に成立したと認める甲第十四号証には、いずれもこの点について原告の主張を肯定せしめる事実が記載されている。

しかしながら当裁判所が先に四において本件発明と対比考察して、本件発明が特許法第一条の発明を構成するに至らないと判断したのは、右引用の二つの米国特許明細書に記載された洗濯機の構造それ自体ではなく、先にも記載したように、右引用明細書の記載するところにより「洗濯装置において回転攪拌具を洗濯槽の側面に設けること」及び「洗濯装置用回転攪拌具として、本件発明と同一のものを用いること」が、本件出願前わが国内に公知なりとし、該公知事実と本件発明とを対比したものであるから、右各証拠はいずれも前記認定を覆す資料とすることはできないし、また第二引用例の洗濯機が商品として市場に現われ実際に使用されなかつたかどうかということも前記認定を左右するものではない。

原告はまた審決が引用した化学工業講座第十一巻「粉砕、混合及分離、固体輸送」(乙第三号証)は、原告において抗弁の機会のない審決において初めて引用されたものであると主張し、その手続を非難しているが、その成立に争のない甲第十二号証(審決)によれば、審決はこれを周知の理論の参照として引用したものであることが認められるばかりでなく、これが採否は先に四において説明したように本件判決に何等の影響をも与えないものであるから、原告の右非難は採用しない。

以上の理由により原告の本件特許出願にかゝる発明は、特許法第一条にいう発明を構成するに至らず特許することができないものであるから、これと同趣旨に出た審決は適法であつて、これが取消を求める原告の本訴請求はその理由がなく、棄却を免れない。

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